痛みと鎮痛剤 見えない痛み

痛みは大変苦痛を伴う嫌なものです。しかし、人間は痛みを感じなくなると細菌感染やウィルス感染や内臓疾患などの兆候に気づけず手遅れになってしまいます。痛みは危険信号の役割があるのです。痛みは生体の警告系と言われています。しかしながら、慢性痛やがんの末期の痛みなど危険信号の必要性のない痛みもあります。
また、痛みは見ることも測定することももできない非常に個人的な問題でもあります。

今回は普段何気なく使っている痛みどめに焦点をあて痛みについて考えてみようと思います。

痛みとは

痛みとは”痛みは、実際に組織損傷が起きた時、起きそうな時、そのような損傷の際に表現される不快な感覚・情動体験である(An unpleasant sensory and emotional experience associated with actual or potential tissue damage, or described in terms of such damage)”と1979年にInternational associations for Study of Pain(国際疼痛学会)によって定義されています。

ちょっとわかりにくいので、咀嚼すると『実際の傷による反射的なものだけではなく、苦しみ、不安、怒り、悲しみなどの心の動きを伴った体験』であるいうことだと思います。痛みは周りから見ることが出来ません。本人しかわからないのです。ですから、本人が痛いと感じたらそこに疼痛は存在するのです。
幼稚園に行きたくなくて『お腹が痛い』なんて子供が訴えることありますよね。幼稚園に行かなくていいとわかるとけろっと治ってしまう。これなんて典型的な例だと思います。本人が不安な感情を伴って痛いと感じている。これも国際疼痛学会では痛みと定義しているのです。決して仮病ではないのです。なぜ、その子が痛みを感じているのかということに共感することが重要だと思います。

では痛みの種類と原因はどう分類されているのでしょうか。

痛みの種類

1.侵害受容器性疼痛

侵害性疼痛とは、体の組織の損傷によって起こる痛みのことです。傷やけがや炎症やコリなどで起きる痛みです。
体の組織に害を及ぼすような強い刺激(侵害刺激:圧力、化学物質(酸アルカリなど)、熱)が加えられると、 侵害受容器が反応し電気信号を脊髄、脳へ向 けて伝達することによって感じる痛みのことです。

2.神経障害性疼痛

神経障害性疼痛は、神経、脊髄、または脳の損傷や機能障害によって起こる痛みです。

末梢性:帯状疱疹後神経痛など
中枢性:脊髄損傷、脳卒中後痛、多発性硬化症など

3. 心因性疼痛

心因性疼痛とは、主として心理的な要因に関連して起こる痛みです。

痛みの種類は上記のように3種類に分類しますが、実際はそれぞれが複合的に関係して起きています。
侵害受容器性疼痛に心理的、社会的負荷が加わると痛みが増強し、慢性化することがあることが知られています。

鎮痛剤の種類

1.非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)

最もポピュラーな鎮痛剤。アラキドン酸カスケード内のシクロオキスゲナーゼを阻害し、プロスタグランジン生成を阻害します。プロスタグランジンは炎症を引き起こし、更に痛みを引き起こす(発痛物質)であるブラジキニンの作用を増強します。すなわちNSAIDsは炎症を直接抑え、痛みを間接的に抑えています。また、プロスタグランジンは視床下部で体温を上昇することに関わっています。よってNSAIDsは解熱作用があります。さらにプロスタグランジンは胃粘液分泌促進作用もあります。よってNSAIDsのより胃粘膜に障害を起こしやすくなります。

上記の痛みの種類の侵害受容器性疼痛の侵害受容器の部分に働き鎮痛効果を発揮しています(発痛物質を抑制する)。また侵害受容器性疼痛の炎症により起きている痛みにも効果があります。

このことは椎間板ヘルニアの原因は椎間板を脱出した髄核が神経根を圧迫するために起きる、すなわち神経障害性疼痛であると一般的に言われています。
この説明ですと椎間板ヘルニアにはNSAIDsは効かないことになります。しかしながら、実際痛みが治まることが良くあります。よって椎間板ヘルニアは痛みに関係がない。と主張している整形外科医がいらっしゃいます。その方は「交感神経が緊張して微小血管の収縮→酸欠というダメージ」によりブラジキニンが産生され痛みが起きている、と主張しています。ただ急性期に炎症が起きていて、抗炎症作用により炎症を抑えて痛みが抑えられているかもしれません。
痛みの機序を薬の効果により推測しています。鎮痛剤が効く痛み(侵害受容器性疼痛)なのかそれ以外なのか。推測することができます。しかし、人間は非常に複雑にできています。同じ症状でも遺伝子、環境が様々ある中で、原因が単一とは言えないのではないかと思います。一人一人の状況を精査しながら診ていかなければならないのでしょう。ただ、メカニズムを推測する一つのツールにはなるのではないでしょうか。

2.アセトアミノフェン

アセトアミノフェンの作用機序はまだわかっていません。解熱作用と鎮痛作用を有する。抗炎症効果はありません。副作用が比較的少なく、インフルエンザ罹患時の解熱剤としても使用される。

3.ステロイド系抗炎症薬

副腎皮質ホルモンを含む抗炎症作用、免疫抑制作用を有する。抗炎症作用は強力ですが、副作用も多い。
臨床適応は極めて多岐にわたり、全ての医療用医薬品において最も健康保険の適応となる疾患が多い医薬品である。さらに適応外ではあっても、積極的に臨床応用されている疾患も多く、いわば「万能薬」的な存在ともいえる。(ウィキペディア参照)
ただ使い方が難しく、様々な副作用も報告されている。

4.オピオイド剤

麻薬を含む鎮痛剤。中枢神経、末梢神経に含まれるオピオイド受容体に結合しモルヒネ様作用を持つ物資の総称をオピオイドといいます。脳、脊髄、末梢に働き鎮痛作用が起きていると推測されています。痛みの伝達を脳に伝えにくくする作用機序のため強力な鎮痛作用を有します。
長期服用による依存と薬物乱用、副作用(吐き気、便秘、ふらつき、眠気、腸機能障害、性腺機能障害、痛覚過敏など)が知られています。
がん性疼痛に保険適応が認められていますが、がん性疼痛以外の疼痛に対しては、激しい疼痛の場合などに一部のオピオイドのみの使用が認められています。

簡単にまとめると以上のようになります。まだまだ作用機序など不明のことも多く、副作用の問題もあり、薬だけで痛みを抑えるのはまだまだ難しいようでです。

痛みは単独の原因ではなく、様々な要因が複合的に重なり合って引き起こされています。そのため、薬物療法でもなかなか効果があげられなく慢性痛になるケースも散見されます。腰痛においては「生物・. 心理・社会的疼痛症候群」と捉えるような動きがあります。痛みの原因を従来型のモデルに決めつけず、一人一人それぞれのケースをよく観察し、対応していくことが求められています。

NSAIDsのところでも取り上げましたが、薬の作用機序を考えることで、痛みの本質に少しでも近づき、氣の医学でも応用できるのではないかと考えています。
更に、あなたが飲んでいる鎮痛剤の種類、作用機序を考え、それが効いているのか、効いていないのかを考え、それはどうしてか?を考えていくと、外から見えない痛みに少し近づけるかもしれません。またの機会にその辺のところを取り上げてみたいと思います。

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